映画「ナザレのイエス」は、1980年8月2日に東宝東和の配給で劇場公開されました。
洗礼を受けてから観る初めてのキリスト伝でしたので、胸をわくわくさせながら、日比谷の映画館に観に行きました。当時はまだ立ち見席が許されていた時代で、確か最後まで立って観た気がします。あっという間の195分でした。
十字架のシーンが、ただの十字架ではなかったことが頭に残っています。
やっと新訳聖書を読破したばかりの私には、クリスマスから始まって、十字架、復活まで、聖書に忠実に描かれているイエス伝を観たことは、2000年前の聖書の世界を体感する思いでした。
何しろ俳優陣がすごいです。マリアは、「ロミオとジュリエット」でその美しさに当時の男性陣の心をつかんだオリビア・ハッセー、他にアン・バンクロフト、ジェームズ・メイソン、イアン・マクシェーン、ローレンス・オリヴィエ、ドナルド・プレゼンス、アンソニー・クイン、フェルナンド・レイ、ロッド・スタイガー、ピーター・ユスティノフなどアカデミー賞受賞者級のトップクラスの俳優たちがずらり。しかも、イエス役は、歴代のイエス役で最高の演技を演じたといわれるロバート・パウエル。そして監督は、「チャンプ」のフランコ・ゼフィレッリです。
確か観客動員10万人、9週間のロングランを続けたと聞きました。
実はオリジナルは、1977年に制作されたイタリア・イギリスのテレビ映画で、6時間11分の作品です。当時私は大学卒業後、映画伝道の道に導かれていたので、いつかこの作品を日本に紹介したいと夢を持ちました。
それから、20年後、私もいのちのことば社映像部門の責任者になりました。何とかあの夢を果たしたいと、まず版権を持っている団体を探しました。海外では著作権ビジネスは盛んで、版権者がどんどん変わってしまうのです。アメリカで開かれたChristian Booksellers Associationに何度も行っては、情報を元に探すのですが、なかなか見つかりませんでした。
あるとき海外からメールが来ました。イギリスの会社が今「ナザレのイエス」の権利を持っていて、その担当者が日本に来ているとのことです。しかもその方に連絡をすると、今なら会えるとのことでした。そこでタクシーで新宿にあるハイアットリージェンシー東京ホテルに、宣教師と秘書と私の3名で駆け付けました。
「どうしてもこの作品の日本語版を作りたい」と交渉すると、「全ての作品の日本語版の権利を東北新社と交渉するために来日した。契約後、東北新社と交渉して欲しい」との返事でした。またまた、忍耐を働かせる必要が生じました。
半年くらいたって、契約が成立したとのメールがきましたので、早速東北新社にお願いに行きました。
サブライセンスを売っていただけることに合意はしましたが、今度はその契約金、日本語の字幕、吹き替え製作費、宣伝費の問題です。
何しろ6時間11分の作品の日本語版を作るんですから、数百万円の予算になってしまいました。ここは強気でいくしかありません。「必ず収支は守ります」と当時の経営者たちにお願いし、理解をいただき、漸くスタートできました。
吹き替え作業にも立ち会いました。声優さんたちも一生懸命なのですが、どうしてもイエス役に満足出来ません。演出家から、予算オーバーになるが配役を替えたいとの要求です。イエスが主役ですから、仕方がありません。
ベテランの声優の劇団青年座の家中弘さんに演じていただくことになりました。さすが実力派の声優です。一気にイエスが感情豊かになり、映画が引き締まりました。それ以来、私が製作した日本語版のドラマのイエス役は、全て家中弘さんにお願いしています。
2003年秋に、ついにDVD「ナザレのイエス」が発売になりました。23年間の夢がかなったのです。おかげさまで、発売前から注文殺到で、私が退職するまでに、ビデオ、DVD合わせて8,000枚ほど用いられていたはずです。多くの皆さんが、この映画を通して、イエス・キリストによる救いを見てくださったと信じます。
こうして、すべての者が神の救いを見る。(ルカ 3:6)
ナザレにイエス DVDジャケット 声優 家中 宏さんと(他の作品で)
残念ながら、現在は契約切れで品切れ状態です。中古でもお持ちになることをお勧めします。
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